【解説】春の大祭〈前編〉
煎花茶(せんかちゃ)/ 「ハーブティー」としても特に差し支えない。普段飲むものよりちょっと良いお茶。飲用の葉に乾燥させた花弁などを混ぜているため、香りが良い。
神僧(しんそう)/ 僧尽の中でも数少ない役職。常に知狎苑へ顔パスで出入りすることが許されている。必ず知狎から直接指名され、所属も知狎苑近くの寺院へ変えられてしまう。(青の国の場合は、東苑を管轄とする理天東鹿寺院の所属となる)
稀に神僧への転向を拒む者がいるが、知狎がそれを許すこともまた稀である。
北苑(ほくえん)/ 現在、東世の人々にとって聖地のような場所。北苑を要する黒の国の都が「東世の中心」と見なされる。
梅、一梅(ばい、いちばい)/ 一口で食べるのにちょうど良い大きさ、ということで単位に梅が抜擢された。つまり「一口大に切る」と言われたら梅の実くらいの大きさに切れば良い。ただし、ここでいう梅は梅干しではないので結構大きい。一梅はおよそ3.5cm前後、東世の人々の一口は大きいのである。
大昔は一口分の大きさとして「一匙」など様々な表現をしていたが、どれも誤差が大きすぎて廃れた。
骨、一骨(こつ、いっこつ)/ 魔法使いの杖はほとんど骨と同じ成分でできていると言われ、見た目も骨をわずかに加工したようにしか見えない。古来より杖を(自分の)骨と見なす文化が浸透している。
梅、骨よりさらに正確な単位もあるが、西世の数学を学んでいないと使いこなせないため、大学くらいでしか使用されない。細かい計測が必要な職業の者も既存スケールを用いることが多く、意外と数学的な単位の存在を知らないらしい。
朱の国の呪号 / 「タン」は他国の呪号とあまり似ていないが「自分たちでもっと便利な呪号に変えていこう」と様々な人がアイディアを出して改変を重ねたため。漢字をあてると「魄発」となる。朱の国の人々は感受性を重視し、喜怒哀楽の激情や精神性を重んじる傾向が強い。朱雀の都は古来より劇作家や文学者が好んで集まる場所であり、歴代の文系たちの叡智の結晶がこの呪号なのである。
黒の国伝統の舞 / 他国には舞を舞う人が少ないので、確実に「由緒正しい伝統の舞」と呼べるようなものが黒の国にしか残っていない。東世の舞は「課題曲ありのフリースタイル」であり、他者の舞を参考に舞っても良いし、完全オリジナルで舞っても良い。古い詩などをなぞって自分で振り付ける。そのため、言われなければ舞だか踊りだかわからないこともある。
踊りと同じでいつもBGMがある中で舞うとは限らないが、大祭で神僧が舞を捧げる時などはだいたいBGMが付く。
菊祭り / 九月九日の吉日。春と夏の大祭に比べると特別感に欠ける。神に歌を捧げる、あるいは歌によって生を讃えるのが慣わし。
この頃は何を食べても美味しいので、道端の野菊さえ美味しそうで食べてしまいたくなる、というのが菊の日の由来。
僧兵(そうへい)/ おまわりさん、刑事さん、SAT、警備員さん、災害救助員さん、ボディガードなど、幅広い仕事を請け負っている僧尽。ときに過酷な仕事もこなさなければならないが、人数が多いこともあり、暇な日も多い。
伴氏(はんし)/ 東世では生涯のパートナーをこう呼ぶ。未婚の恋人は「半氏」と表すが、特にこだわらず伴氏と呼ぶこともある。現在の東世には婚姻届に当たるものがないため、すべて自己申告である。そのため結婚するときは面倒がなくて良いのだが、離婚するときは泥沼になることが多い。
伴伴(はんはん)/ 日本語で言うところの夫婦にあたる。未婚のカップルは「半半」だが、区別しないこともある。
性別に制限はないが、古い言葉では夫婦のことを「お嫁さん」と「お娶さん(おむかえさん)」と表現した。プロポーズした方がお娶さんで、意味は「迎えに行く人」、一方のお嫁さんは「家の宝のような人」。重婚が可能だった頃の言葉であり「伴氏」が一般的となった昨今では、嫁と娶という言葉は古臭い。
今では重婚は認められないが、公的な婚姻証明がないことから不倫裁判も叶わず、呪いの誓約書でもなければ浮気はほぼ泥沼化してしまう。現在の東世が抱える由々しき問題のひとつである。
キャメラマシン / 通称キャメラ。写真を撮ることができる道具。すべての人が同じ魔法を使えないことから、機械仕掛けの道具も少なからず存在する。完全に機械仕掛けであるか、多少魔法が作用しているのかは、作った人に聞いてみないとわからない。機械は西世由来のものが多いため、機械全般をマシンと呼ぶ。
可愛い名だな / 実際、東世の人は「マイマ」を可愛い名前だと感じやすい。東世で「ムウムウ」という言葉が爆発的に流行ったのは、日本語のマ行の音がみんな好きだから。また、母音がエで終わる名前には「賢そう、クール」などのイメージを抱く。だからフィオロンは、エルメではなくメルの名を可愛いと言っている。
鹿時計(しかどけい)/ 知狎が管理している、魔法の時計でありカレンダーでもある。針は1本しかなく、東が3時、西が9時、南が6時、北が12時だが、鹿時計に数字は付いていない。(ただし、針が2週で1日という読み方は日本と同じ)
早朝、朝、昼、夕方……といった表現の方が一般的。毎日夜になる時間が異なり、1日の長さが一定でないため、時間の表現が自然と大雑把になった。
黒の国の呪号 / 玄武体術に最も適している呪号。漢字は「魄尖」で、唱えるときは魂を磨いて張り詰めていく、とイメージする。集中型という点では白の国の呪号と似ており、白の国には玄武体術のときだけハイを使うハイユーザーがいるらしい。
黒の国は勤勉で辛抱強く、助け合う国民性だと言われているが、冗談や楽しいことも大好き。
大師(だいし)/ 僧尽の敬称は普通「法師」だが、直接指導してくれる上司や親しい間柄の先輩に対してこう呼ぶことがある。地元の有名な僧尽や、過去の偉人を指して「大師さん」と呼ぶことも多い。
顔見知りも大好きなお友達も「朋人」の呼び方で一括りにする東世にしては珍しく繊細な区別。それだけ寺院において脈々と受け継がれる文化は独自性が強いのである。